• una casita Website Menu
 
  • #
  •  
  • #
何が付加価値になるのだろう?
Wagyu farmer in Shinhidaka. まつもと牧場
  • デザインは商品に付加価値をつけること。
    よくそんな風に言われたりもします。

    でも時にこれが付加価値だと思っていたこと以外の部分に、その魅力が隠れていたりすることもあるのです。

    2015年、新ひだか町にあるまつもと牧場の皆さんに出会ったのは、とあるイベントがきっかけでした。自社で作り始めた牛丼に貼るシールを作れないだろうかと相談を受けたプランナーからお話をいただいたのがはじまり。
    私にとって、初めての畜産業のクライアントでもありました。

    短い時間だからこそ”家族みたいに”

    最初にまつもと牧場を訪れるまで、悩んでいたことがありました。
    牧場にはたくさんの牛がいます。まつもと牧場では赤ちゃんから出荷まで一貫生産をしているので、当然生まれたばかりの仔牛もいます。
    その牛たちに対して「かわいい」と反射的に言ってしまうのではないか。でもそのかわいいは”いただくために育てる命”。「かわいい」や「かわいそう」は生業にしているまつもとさんに対して、あまりにも軽い言葉なのではないか。そう思って、取材中は気をつけねばと思っていたのです。

    もう一つ、今だから正直なことを言うと、生き物が過ごしている場所なんて動物園くらいしか行ったことがなかった私は、虫が苦手、生き物の匂いも苦手でした。失礼のないようにしなくちゃと覚悟を決めて向かいました。

    実際に牧場について、牛舎を案内してもらいながら驚きました。
    明るくて気持ちのよい風が通り抜ける牛舎は、驚くほどにきれいで気になる匂いがほとんどしない。こんなに気にならないものなのかと、思わず松本さんに聞いてしまったほどです。その理由は寝藁を頻繁に取り替えるなど手間暇をおしまない作業ゆえのことでした。
    出産を控えたお母さん牛は、裏山や沢を自由に歩き回るのですが、帰ってきた時ふかふかの寝わらが待っていたら気持ちいいだろうな。

    そして仔牛のクリクリとした目とまだおぼつかない足取りがあまりにもかわいくて、先の決意は何処へやら、「やーかわいい」とうっかり言ってしまったのですが、案内してくださった尚志さん、照世さんも、「この子は先月生まれたばっかりでまだまだ甘えんぼなのさー」「この子は手がかかる分かわいくってねー」とニコニコ。それぞれの牛にちゃんと名前もありました。

    また牛たちが出荷される時には照世さんは泣いて立ち会えないこともある、と言いました。

    母牛から生まれるところを見守って、そこから30か月を共にするのです。愛情が生まれるのは自然なこと。いただく命であろうとも、一生懸命かわいがって、お別れの時は悲しくて。それでいいのかもしれない。私が心配していたことなんて気持ち良く吹き飛ばしてくれるほどに、松本一家の牛たちへのまなざしはあたたかいものでした。



    違っていることだけが付加価値ではなかった

    まつもと牧場で育てる牛は「こぶ黒」という黒毛和牛。
    餌に地域の特産品、日高昆布を混ぜています。”昆布”を食べて育った”黒”毛牛だから「こぶ黒」。
    なので当時のWEBサイトは高級和牛をイメージさせる黒が基調で、これを機にリニューアルすることになったロゴマークのリクエストも、昆布のイメージが入ればと言われていました。

    新ひだか町という場所で特産の昆布を食べて育った牛、ということは立派な付加価値。なのかもしれない。

    でも、こぶ黒の魅力は本当にそこ?

    もちろん餌を工夫することで、牛たちは天然の栄養をたっぷり補給できています。
    ただ、私たちは実際に牧場に伺ってお話を聞くことで、それ以上の魅力を発見してしまったのです。

    それは「松本一家が育てている」ということ。

    牛を育てるお父さんと長男、加工技術を磨いて戻ってきた次男、それを明るくサポートしながらお客様にお届けすることに精を出すお母さん。

    この牛が大好きな家族が、”牛の一生を一緒に過ごすのだ”と心地よい牛舎で愛情深く育てていることこそ、お客様にこのお肉を食べたいと思っていただく最大の魅力だと感じました。

    実際、この後にまつもと牧場は東京のデパートの催事に呼ばれるようになり、そのたびに会いに来てくれるファンのお客様がたくさんいらっしゃるのです。お肉が美味しかったからというのは当然のことながら、照世さんに会いたくなるんじゃないかなと想像しています。

    なので「こぶ黒」という名前は残しつつ、イメージはガラリと一新。
    マークは最初に見た明るくて心地よい木の牛舎をモチーフに。WEBサイトはそのイメージのままあたたかくて心地よい牧場の雰囲気を踏襲しました。

    実はこのマークになった牛舎は、お父さんの故郷であるこの地にご夫婦が戻ってきて酪農と兼業でスタートした頃、プロの手を借りながらも2人で完成させた思い出いっぱいの牛舎。
    提案した時に「あの牛舎がマークになるなんて」と声をつまらせていた照世さんの声を思い出しては、喜んでいただけるご提案をしなければと背筋がしゃんとします。


    進み続けていくこぶ黒物語

    2016年にロゴマーク、名刺、パンフレット、WEBサイトを制作したいわば第一弾整備を終え、それから少しずつ、でも確実にまつもと牧場の大躍進は続いています。
    食材にスポットを当てるTV番組に取り上げられたり、先の東京の催事には毎年欠かさずお声がかかるように。この2019年の夏の終わりには、こぶ黒を存分に味わえる焼肉やさんも同エリアにオープン予定。こぶ黒を使った美味しい商品も試作を繰り返して増えてきました。
    それに伴い、最初はロゴのラベルを貼って販売していたハンバーグがオリジナルパッケージになったり、のぼりや腰まきなどの催事グッズも増えて、より美味しく召し上がれるようにお肉についての説明書ができたり、ギフトに喜んでいただけるようにとギフトボックスができたり。
    大事に育てた牛をより美味しく、より身近に、とにかく食べてほしいんだという松本一家の熱量は今もずっと変わらないのです。


  • client / 株式会社 まつもと牧場
    planning / PATTERN PLANNNING 株式会社
    photo / footic 高田美奈子
    http://kobu-kuro.com/
DMevent toollogoname cardnovelty goodspackagepamphletposterWEB
2019 07 25